わたしたち人間と共生するようになって、すでに長い歴史がある犬たちですが、彼らがどのような感情で日々生きているかということを、あらためて考えてみませんか。
今回お話をうかがったヒューマンドッグトレーナーの須﨑大さんは、異種である動物との共生は、わたしたち人間にとって、とても心を動かされることだ、と言います。
その上でのリフォームは、明らかに人生の充実をもたらしてくれるものとなるでしょう。
すべては飼い主の意識しだいで、変わるのです。

異種である動物との共生

日々の掃除と散歩、意外とかかる医療費。犬を飼うというのは楽しいことばかりではなく、あんがい大変なことが多いものです。犬と暮らすことになった当初、高揚感と同時に、不安や心配が入り混じる気持ちはすべての飼い主が経験したものだと思います。なぜなら犬はわたしたち人間にとって特別な存在であり、ときには唯一無二の理解者でもあるからです。本質的には異種であって、骨の数も口腔内のphの値も体温も、わたしたち人間とは異なる種だというのに。しかし、地球上に存在する哺乳類の中で、犬が人間と有機的な関係性を構築してきた歴史が最も長い動物であることは確かです。お互いに必要とし、協力し合いながら生きてきた経緯があります。つまり「犬を飼う」というのは、ほかの小動物とは異なり、まさに「犬と暮らす」ことを意味しているわけです。異種である動物との共生は、わたしたち人間にとって、とても心を動かされることで、それははるか昔から連綿と続いてきた、抗いがたい感情といえるのではないでしょうか。

その犬の特性を理解する

哺乳類の中で、もっとも種としての数が多いのも実は 犬。猫の種類(猫種)は、認定する団体によって異なりますが約50~60種ほどにとどまり、認定されていない品種を含めても約100種程度とされます。いっぽう犬は、地域によってはあまり知られていないような土着の犬種や非公認の犬種を含めると、700〜800の犬種があるといわれています。これは目的に応じて、共に生きていくために、必要な部分を伸ばし、必要ない部分を排除してきた結果であると考えられます。だからこそ「犬と暮らす」ということは、その犬の「特 性」をよく理解しておく必要があります。種が多いということは、個々のキャラクターが立っているということであり、見た目の可愛さだけで選んでしまうと、後々その犬のハイスペックさに驚かされることも多々あります。だからこそ犬種特性を知ることで、愛犬との暮らしのビジョンが、ぐっと鮮明になってくるはずです。

自分も含めた相互チェック

さて、いよいよ伴侶となる犬種を考えていきましょう か。もちろん犬の見た目だけではなく、自分のライフ スタイルや性格と照合することも大事なこと。ついついその犬種特性に目が行きがちですが、自分とのマッチングを確認するのは、その後の十数年を見据えても必須だといえます。たとえば、アウトドア派であれば、アクティブな犬種のほうがその素養を楽しめるでしょうし、お子さんがいるのであればロイヤルな犬種で、子どもの成長と共に見守っていくのもいいでしょう。いずれにしても、犬と暮らすための「目的」を家族で共有することが大切です。これから一生を共にする伴侶となる子を選ぶ際は、自分も相手に合っているのかチェックする必要があり、その点は、対人関係とまったく同様なのです。

根源的で深い幸せ

ペットショップでたまたま出会ったから……よくある衝動買いで、犬との暮らしがスタートした方もいるかもしれません。それでもいま、毎日が共に幸せな気持ちで満ちているのであればそれでいい、とわたしは思います。誰々の幸せの方が優位であるといった指標がないのですから、あなたが幸せだと感じているのであれば、それがすべてです。アメリカ・カナダで暮らしていた頃、当然のように見聞きしてきたことを思い出します。友人の家に行くと、必ずといってよい確率で、家族のポートレートや思い出の写真が所狭しと置かれ、壁にかかっていました。週末は、定期的に友人を自宅に呼び、早めの時間からときに杯を交わしながら語らうのが自然な光景でした。自分の人生で大事なものにプライオリティをつけて、それを大切にする。きっと幸せってこういうことなんだろうな、と感じていました。もちろんブランド品に囲まれて幸せを感じる人もいるかもしれません。しかし動物との共生は、もっと根源的で、かつ深い幸せを教えてくれます。たとえば、毎日の散歩で拾う愛犬のうんち。これも愛犬の健康なからだがなければ叶いません。しかも、ほっこり温かい。まさに生きている証でもあり、毎回わたしが幸せを感じる瞬間です。これを少なくとも一日 一回。一緒にいるあいだ、永続的に与えてもらえるのです。

「ペット可」が示すこと

わくわくが止まらない犬との暮らしですが、「ペット可マンション」を見に行くと、あまりわくわくしないことも。たとえば、以下のような仕様のマンション。
①コンセントが高い位置に設置してあります
②共有部分に犬用の水洗い場があります
③ペット専用のエレベーターが設置されています
これらは利便性が高いかもしれませんが、残念ながらすべて「人間目線を重視したペット可仕様」であって、その仕様が犬にどのように映っているのかには注力していないのです。わたしたち人間にとって暮らしやすい工夫をするのは当然ですが、犬たちがどのような動きをして毎日を過ごしているのか、という視線が絶対的に足りないのだと思います。だからこそ、愛犬を理解した飼い主が、さらなる充実した共生のためにリフォームをするというのは、すばらしい選択だといえるでしょう。犬と暮らしていると毎日、毎時間、何かしら笑みが生まれます。食べるときも一生懸命、寝るときも全力。ときには、ただ目が合っただけで微笑みが溢れる瞬間も。いずれにせよ共に暮らす中で、もれなく幸せの貯金がどんどん溜まっていくのが犬生活。では、どんな毎日が、わたしたちの心を豊かにしてくれるのか、それを実現するための居場所はどのようなものなのか、ちょっと想像してみましょう。

「時間と空間」を共にする生きもの

まずは自身のライフスタイルをもう一度確認しましょう。あなたはどんな生活をおくっていて、何が好きなのか。そして犬と一緒に、日々をどのように謳歌したいのか、ビジョンを整理するのです。楽しいことをしたい、といったわくわく系はもちろん、リラックスした時間を過ごしたい人もいるでしょう。実はそういった、日常に散りばめられたちょっとした幸せこそ、心を豊かに育てるコツだといえます。もしあなたがキッチンにいる時間が長いのであれば、キッチンから愛犬がリラックスして休む様子を見られる間取りがいい。愛犬が寝ている様子を見ながら料理をつくり、その空間に自分が居合わせていることを実感できるだけで、自然と口角があがるものです。おもしろいことに、愛犬はシャンプーのためにサロンに行っていて留守なのに、キッチンでカットした人参がフロアに落ちて「あ、やばい食べられちゃう」と一瞬思った経験がある人も多いはず。その感覚は、犬がわたしたちと「時間と空間」を共にする生きものだからこそ。時間と空間を愛犬と共有できる喜びは、なにものにも代えがたく、尊いものです。

幸せのクリエイト

さらに愛犬が7歳以上のシニアであれば、室内の空調の循環を考慮した仕様がいいでしょう。犬は加齢と共に、動くことに対して消極的になり、一日の排尿の回数が少なくなるほどです。空調の温度設定はもちろん、空気の流れを上手く作ってあげることで、腸を冷やしすぎないように、シニア犬のからだへの負担を確実に軽減することが可能です。加齢によってアクティビティの質が変わるのは、犬もわたしたち同様です。そしてお子さんがいらっしゃるのであれば、リビングが家族の動線になるような間取りにするといいと思います。子どもは成長とともに、親との共通言語が少なくなり、部屋にこもるような傾向がありますが、そこに犬がいるだけで、必然的にリビングで過ごす時間が増え、家族で共通の話題をもつことにもつながります。また、犬はわたしたち人間の約6倍の速度で歳を重ねていきます。子どもの成長よりも早く歳をとり、先に人生をまっとうするのです。愛犬と家族の時間を記憶に留めておくことができるのも、コミュニケーションを共有してきた日常があってこそだし、大切な家族の死を経験するのは、子どもにとって悪いことばかりではないともいえます。心の豊かさの尺度はこの世には存在しません。ただし自分自身が「幸せだ」と感じる対象やタイミングは、自身でクリエイトしていくことができます。ちょっとした「幸せ」を日々貯金していくという発想があれば、いつのまにか、わたしたちの「心の豊かさ」は毎日貯蓄され、気づけば心が健康な毎日を謳歌していることでしょう。そして、そんなわたしたちに常に寄り添ってくれるのが、ほかならぬ愛すべき犬たちなのです。であるならば、心の豊かさを貯金する環境を創造するためのリフォームを考えてみることは、もしかしたらわたしたちの人生のハイライトといえるのかもしれません。

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